あなたは、厚生年金と国民年金の違いについて、きちんと理解していますか?「なんとなく、国民年金より、厚生年金の方が、もらえる金額が多いらしい」という知識はあっても、どう違うのか、詳しく説明できる方はあまり多くないのではないでしょうか?今回は二つの年金の違いを、いろいろな角度から比較してみました。具体例もあげて、わかりやすく説明しています!
厚生年金と国民年金の制度の違い
まずは、制度について簡単に説明しましょう。便宜上、国民年金を先に紹介します。
国民年金
日本国内に居住している20歳以上60歳未満の方は、国民年金の被保険者となります。20歳になれば、一部の人々(※)を除き、国民年金第1号の加入手続きをすることが必要です。
(※)厚生年金保険加入者や共済組合加入者、またはその配偶者に扶養されている人
つまり、国民全員が必ず入らなければならない年金です。上の文章では「一部の人々を除き」となっていますが、厚生年金や共済組合、その配偶者に扶養されている人も、実は間接的に国民年金に加入していることが、これからの説明でおわかりいただけるかと思います。
厚生年金
厚生年金とは、主として労働者(サラリーマン)が加入する公的年金制度です。二段階方式になっていて、一階部分は基礎年金となる国民年金、それに上乗せして支給される二階部分になります。ですから、厚生年金加入者も、自動的に国民年金にも加入していることになるのです。
厚生年金と国民年金の金額の違い
さて、みなさんが一番気になるのは、二つの年金の支払う金額ともらえる金額がどのくらい違うかということではないでしょうか?「制度の違い」のところで説明したように、厚生年金は国民年金の上乗せ部分なので、もらえる金額が多いのは予想がつくと思いますが、支払い金額が高ければ、あまりお得とは言えませんよね?
それでは、支払い金額やもらえる金額について、具体的に見ていきましょう!
支払い金額について
■国民年金
現在の国民年金第1号被保険者及び任意加入被保険者の1か月当たりの保険料は、16,260円です。
■厚生年金
厚生年金の保険料は、毎月の給与(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に共通の保険料率をかけて計算されます。つまり、給料が多い人ほど支払う金額も多くなるわけですが、保険料は事業者と折半です。それから、保険料率というのも、勤めている地域により違うので、同じ給料をもらっている人でも、保険料が同じとは限りません。
ちょっと漠然としていて、わかりにくいですね。次に簡単な具体例をあげて、説明しましょう。ちなみに、標準報酬月額というのは、報酬月額(※)を一定の幅の金額に当てはめたものです。これも下の例で詳しく説明します。(※)報酬月額とは、通勤手当等を含めた報酬に加え、事業所が提供する宿舎費や食事代等の現物給与の額も含めて決定されます。
<例題>
自営業のAさん(国民年金)、会社勤めのBさん(厚生年金)は二人とも月収が30万円です。毎月の保険料は、それぞれいくらになるでしょうか?
<回答>
・Aさん:16,260円/月です。Aさんの月収がいくらでも、国民年金の月額は一定ですので、同じです。
・Bさん:32,090円/月です。
◎解説:
Bさんは東京の会社に勤めていて、月収30万には、通勤手当等を含めたものとします。これを「報酬月額」と言います。この報酬月額を東京都の「保険料額表」(下のリンクをご覧ください!)に当てはめてみると、報酬月額290,000~310,000円に入り、「標準報酬月額」は300,000円(21等級)になります。
次に右の方の「厚生年金保険料」の「一般の被保険者」のところを見ると、「折半額」が32,090.40円になっています。50銭未満は切り捨てなので32,090円になるのです。Bさんの方が支払い額がかなり多いですね…。ではもらえる金額はどうなのでしょうか?早速確認してみましょう!
受給金額について
もらえる年金の金額については、人それぞれなので、ここでは単純化した例をあげて、金額を比べてみることにします。
■老齢基礎年金(国民年金)
老齢基礎年金を受けるためには、保険料を納めた期間、保険料を免除された期間と合算対象期間とを通算した期間が、原則25年間(300月)以上あることが必要です。
たとえば、先ほどの「支払い金額」のところで登場したAさんが、20歳から60歳までの40年間まじめに国民年金を支払い、今年65歳になったので、晴れて満額の老齢基礎年金が受け取れるとしましょう。
・平成28年4月からの年金額は、780,100円/年です。
・月額に直すと約65,008円、20年間(85歳まで)もらったとして、合計15,602,000円になります。
■老齢厚生年金(厚生年金)
・老齢基礎年金の支給要件を満たしていること。
・厚生年金保険の被保険者期間が1カ月以上あること。(ただし、65歳未満の方に支給する老齢厚生年金については、1年以上の被保険者期間が必要です)
厚生年金の計算は、とても複雑なので、今回は省略させていただきます。計算方法の詳細を知りたい方は下のリンクをご覧ください。さて、「支払い金額」のところで出てきたBさんですが、彼(実は男性)も今年65歳になり、年金をもらえることになりました。Bさんは40年間会社勤めをし、60歳で定年退職しています。
ありえないことですが、月収がずっと30万円だったとして計算してみると、老齢厚生年金は1,026,000円/年くらいになります。これにAさんと同様の老齢基礎年金が足されるわけですから、Bさんの合計年金額は、1,806,100円となります。月額150,508円、20年間もらったとすると、36,122,000円です。
まあ、多く支払った分、多くもらえるのは当然と言えば当然ですが、厚生年金の方がいいと言われる理由はもうひとつあります。次にそれをお話ししましょう。
厚生年金と国民年金の扶養の違い
では、またAさん、Bさんに登場してもらって、説明しましょう。二人に扶養している専業主婦の妻がいたとします。Aさんの場合、国民年金には「扶養」という概念がありませんので、奥様の年金もAさんと同じ金額支払うことになります。
・16,260円×2人=32,520円/月
一方Bさんの奥様は、手続きをして第3号被保険者になれば、保険料を支払わなくても将来老齢基礎年金(国民年金)を受給することができます。ですからBさんの支払う金額は、一人分たけでいいのです。
・32,090円/月
なんと!Bさんの方が少し安くなってしまいました。もらえる金額はAさんの妻もBさんの妻も同額だと考えると、厚生年金の方が得だと言われる理由が、おわかりいただけると思います。
その他の年金との違い
厚生年金と国民年金の違いがわかったところで、他の年金ともちょっと比べてみましょう!
企業年金
企業年金とは、いわゆる「三階部分」です。一階が国民年金、二階が厚生年金なので、そこにさらに上乗せされる年金ということです。種類もいくつかあって、以前は扱っている会社が多かったのですが、近年、少子高齢化の進展や経済運用環境の低迷など、わが国の企業年金を取り巻く情勢が大きく変動したため、縮小や解散が相次いでいます。
共済年金
共済年金は公務員等が加入する年金制度です。厚生年金とほぼ同じような制度でしたが、平成27年10月に厚生年金と統一されました。
遺族年金
遺族年金は、国民年金や厚生年金に加入していた人が亡くなった場合、その遺族に支払われる年金です。対象者は、死亡した者によって生計を維持されていた、妻、子、孫、55歳以上の夫、父母、祖父母などです。種類もいろいろあります。おおざっぱに書くと、以下のようになります。
・自営業者等(国民年金のみに加入している場合):遺族基礎年金、寡婦年金、死亡一時金
・会社員:遺族基礎年金、遺族厚生年金
近年、核家族化が進み、老夫婦の二人暮らしもよく見られます。万一の時のために、自分(または親族)が遺族年金を受け取れるのか、確認しておいた方がいいと思います。
明るい老後のために、今できること
厚生年金と国民年金の違い、そしてその他の年金の位置づけについて、少しはおわかりいただけたでしょうか?「金額の違い」のところの例題の金額はおおざっぱ過ぎて、詳しい方から批判されそうですが、そもそも「正確な金額」は自分が受給するまで、わからないと思います。
ただ、シミレーションしてみることは誰にでもできます。定期的に届く「ねんきん定期便」には、現時点での自分がもらえる年金額が計算されていますし、「日本年金機構」をはじめとするいくつかのホームページでは、試算してくれるサービスもあります。
正確ではなくても、自分が将来もらえるおおよその年金額がわかれば、老後の計画も立てやすくなると思います。「金額の違い」の例で気付かれたかもしれませんが、残念ながら、たとえ厚生年金を40年間払っていても、年金額だけで、今と同じ生活ができるとは思えません。
それならどうするのか…。今から予測して備えておけば、年金受給者になった時も慌てずに済みそうです。この機会にぜひ、年金や老後のことについて、少し考えてみることを、お勧めします!
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