背が高くてカッコ良くて芝居が上手いイケメン!そう評されることが多い俳優・小栗旬さん。
テレビ・映画・舞台とオールマイティーな活躍を見せる彼は、子供の頃からエキストラとして芸能界と関わっていましたが、俳優として芽が出るまでには意外と時間がかかりました。
そして人気が出てからは、また別の悩みが彼を取り巻きます。これまで壁を乗り越えてこれたのは、自分一人の力じゃない。常にそう思い続ける真摯な姿勢が、彼が成長を止めない大きな要因なのでしょう。
「その他大勢」から「役者」になるまで
父親がオペラの舞台監督を務める小栗旬さんは、幼い頃から父親の仕事場を訪れ、4歳の頃に子役として舞台出演したこともあるそうです。
そんな彼が芸能界に入ったきっかけは、小6のときに「内田有紀さんと共演したい!」とオーディションに応募して劇団に所属したことでした。
その後もエキストラとして活動しましたが、中3の頃には忙しくて学校にあまり行けなくなり、高校生になって、連続ドラマ「GTO(1998年・吉川のぼる役)」の生徒役としてレギュラー出演が決まると、ますます学校から遠ざかってしまいます。
一時期はモヒカンヘアーに眉を全剃り、と周囲を驚愕させたこともありました。「周りへの反発心からやっていた」というそのスタイルはさすがに父親や事務所スタッフから叱咤され、彼は真面目に仕事に取り組むようになります。
ドラマ「Summer Snow(2000年)」で主人公(堂本剛さん)の弟で耳に障害を持つ篠田純役を好演し、その後、「ごくせん第一シリーズ(2002年・内山春彦役)」でもメインキャストに選ばれ、彼の姿を見かけることが多くなりました。
ブレイクしたのは「彼」ではなかった
決定的なブレイクは、「花より男子(2005年)」の花沢類役でした。F4(エフフォー)と呼ばれる学園のイケメン4人組の一人で、繊細で物静かな微笑みを浮かべている類は、ヒロインが最初に恋する相手として、テレビを見ている女性たちをも魅了します。
このドラマの大ヒットで彼の知名度は一気に上がりましたが、思わぬ誤算もありました。テレビを見ている人が、「花沢類=小栗旬」と信じ込んでしまったのです。
元々男気が強く頑固な部分もある彼が、絵に描いたような「草食系男子」を求められ、取材でも「王子様」としての振る舞いを望まれ、居心地の悪さを覚えることが多かったようです。
ファンと普通に接しても「冷たい」「天狗になってる」と言われます。役のイメージがこれほど強く、ドラマ終了後も付きまとうのは初めての経験だったでしょう。
この2007年は、ラジオ「オールナイトニッポン」のパーソナリティを始め、ドラマでは「花より男子2 リターンズ」(花沢類役)、「花ざかりの君たちへ イケメン♂パラダイス」(佐野泉役)。映画では「キサラギ」(家元役)、「クローズZERO」(滝谷源治役)がヒット。200日間休みなしの仕事漬けの毎日だったそうです。
ドキュメンタリー番組「情熱大陸」では番組初の2週連続放送と、DVD化もされました。
花沢類の亡霊は映画「クローズZERO」で不良高校生・滝谷源治役を演じる頃まで続いたのではと思われます。まさに彼が大躍進を果たした年でしたが、同時に疲労がピークになった年でもありました。
理不尽への怒りと押し迫る孤独、それらすべてが糧になる
彼が苦しんでいる姿を近くで見守っていたのが、演出家・蜷川幸雄氏です。藤原竜也さんを「身毒丸」オーディションで見出し育てたことで有名ですが、彼も「ハムレット(2003年)」から親交があります。
舞台における育ての親と言っていい蜷川氏が、一番追い詰められていた状態の彼に主演作として用意した作品は「カリギュラ(2007年)」でした。暴君と名高いローマ帝国第3代皇帝・カリギュラの姿を描いた舞台に、彼は主演として呼ばれたのです。
しかしこのとき、数ヶ月休みがない状態の彼はセリフが頭に入らず、立ち稽古でも何度も詰まってしまう状態でしたが、蜷川氏は「ちゃんとできてるよ」と言いました。
彼の中にあったどうしようもない憤懣(ふんまん)と、カリギュラが抱えていた孤独や痛みが重なるところがあるのが見えたのでしょう。
この作品で彼を主演に選んだことに、蜷川氏は実に満足そうでした。「カリギュラ」の稽古を通じて、暗闇に押し潰されそうになっていた彼の心に変化が生れます。
「どこに行っても、オレを見る人たちは虚像のオレを見てる。それを信じてる人たちに本当のオレを見せる必要があるのか分からない。それぞれの見たい取り方で見ればいい。見られて恥ずかしいことなんて何ひとつない。オレは(与えられた役を)やるだけ」
何かに飲み込まれそうになってその恐怖に怯え、それでも怯えている姿も見せられずに足掻いていた日々。そんな彼に光が射しこみ始めました。
要求に応え続ける、ただし、楽しみながら
最近の彼の仕事は、原作付きの作品の実写版に参加する姿が多く見られます。元々漫画が大好きな少年でしたから、原作ファンのプレッシャーもありつつ、彼自身が好きな作品に関われることを素直に楽しんでるようです。
特に「荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE(2012年・村長役)」と「宇宙兄弟(2012年・主演 南波六太役)」は、ある意味高校時代のモヒカン姿よりも周りを驚かせたかもしれません。
頂いたお仕事に真剣に向き合い、お客様に対してはもちろんですが、自分自身も楽しんで演じることを忘れません。
どう見られても構わないと思えるのは、常に精一杯やっているからこそ。かつて「イケメン」「王子様」と呼ばれていた頃よりもずっと自由で自分らしい生き方を、彼は選んだのです。
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