誰もが加入している公的な医療保険制度ですが、入院や手術等で高額な治療がかかる場合,自己負担の3割分を支払ったとしてもかなりの出費になってしまうことが想定されます。このような場合、高額療養費制度を利用すると高額な療養費部分が戻ってくる制度があるのです。認知度が約4割しかないというこの制度をわかりやすくご説明いたします。
医療保険のお得な制度「高額療養費」とは?
高額な医療費を支払った場合
「高額療養費」とは、1日から月末までの1か月間にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合に、ある一定の金額を超えた金額が、後日払い戻される制度のことをいいます。
この制度は家計における負担軽減を図るために、負担の限度額を設けて診療費の超えた分を高額療養費として支給しています。このある一定の金額を高額療養費制度では、「自己負担限度額」と呼んでいます。
この高額療養費は、健康保険制度に加入し日本国内に居住している方ならば誰でも利用出来ます。全国健康保険協会(以下、協会けんぽ)、各健康保険組合、市町村の国民健康保険等どの健康保険でも適用されます。
なおここでは都合上、加入者が一番多い協会けんぽの高額療養費制度で説明していきましょう。
認知度は約4割
ところでこの高額療養費制度、それほど世間的には知られていないようです。今までに病院等で入院や手術等の経験が無い方もほとんどであり、一生この制度を利用されることがいない人たちもいるからでしょう。
協会けんぽでは「医療と健康保険に関する意識等調査」(平成25年9月実施)について、高額療養費の認知度について結果を発表しています。
アンケート「高額療養費制度をご存知ですか?」の質問に対して
・「利用したことがある」23.5%
・「利用したことはないが内容を知っていた」38.4%
・「名前を聞いたことはあるが、内容までは知らなかった」27.8%
・「今回はじめて知った」10.2%
「名前を聞いたことはあるが、内容までは知らなかった」と「今回はじめて知った」の合計では高額療養費制度の認知度は約4割であることが報告されています。
この認知度は会社の健康保険担当者でも同じことがいえます。従業員が手術・入院等をして会社を休んだとしても、会社の健康保険担当者がこの高額療養費制度を知らないが為に従業員は高額な診療報酬を払ってしまったということはあります。
とくに協会けんぽは中小企業の加盟で成り立っていますので、労務管理の健康保険に対する制度に対して知識を持たずに事務を扱っている会社が少なからずあるようなのです。
従って、そこの会社員である皆さんやそのご家族は、この無料で利用できる公的な医療制度を有効的に使えていないというのが実情のようです。
自己負担限度額の計算
まずは高額療養費制度での、自己負担限度額について説明していきます。
自己負担限度額を計算する場合は所得の区分に応じて計算された額となります。所得の区分は協会けんぽでは、標準報酬月額を使用しています。また70歳未満の方と70歳以上75歳未満の方で計算方法が違います。
なお、この高額療養費では保険外負担分の差額ベッド代やインプラント費用や、入院時の食事負担額等は対象外になります。
70歳未満の方
平成27年1月から計算式が改正されました。以下の5通りとなっています。
①標準報酬月額83万円以上の場合
252,600円+(総医療費-842,000円)×1%
②標準報酬月額53万円~79万円の場合
167,400円+(総医療費-558,000円)×1%
③標準報酬月額28万円~50万円の場合
80,100円+(総医療費-267,000円)×1%
④標準報酬月額26万円以下の場合
57,600円
⑤低所得者(市区町村民税の非課税)の方の場合
35,400円
計算例
計算例ですが、月額30万円の方が1か月に総医療費が100万円かかったとします。この場合は自己負担として通常でしたら3割になりますので、病院窓口では30万円の費用負担となります。
では高額療養費制度を活用するとします。
計算式③を使用しまして、自己負担限度額を計算しますと
=80,100円+(総医療費-267,000円)×1%
=80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%
=80,100円+733,000円×1%
=80,100円+7,330円
=87,430円
つまり、本来ならば自己負担が30万円支払わないといけないものが高額療養費制度で87,430円、つまり約9万円で済むわけなのです。このお得な制度を約4割の方々が知らないというのは誠に残念なことなのです。
女性の場合は出産時に利用できる場合があります
ところで女性の場合は妊娠して出産という場合もあり得ます。自然分娩の場合ではそもそも健康保険の対象外で高額療養費は適用されません。そのかわる出産育児一時金でカバーしてくれています。
ですが出産時に帝王切開等手術が必要となった診療の場合には高額療養費制度は利用できます。身近に利用できる制度だということを記憶にとどめておいて家族と相談しながら利用の検討をしてみましょう。
出産に係わる高額療養費適用例として以下のようなものがあります。
・帝王切開
・つわり(重症妊娠悪阻)
・流産・早産
・子宮頸管無力症、妊娠高血圧症候群
・止血のための点滴
・赤ちゃんの新生児集中治療室への入院 など
月をまたぐ診療費は注意
高額療養費制度は1月(暦月)毎に清算していく制度となっています。ですから手術・入院・通院等をした場合に月をまたぐ場合には計算方法に注意が必要となります。
例えば9月から10月までケガや疾病により手術をして病院に入院します。診療費として総額30万円支払ったとします。9月に20万円、10月に10万円の診療報酬を支払ったとした場合、9月分は上限額の8万円強を超えた分が給付対象として戻ってくるのですが、次の10月分は上限額を超えていない分が自己負担となってしまいます。
世帯合算
この高額療養費は協会けんぽに加入している被保険者本人とご家族である被扶養者が、1ケ月で別々に医療機関にて高額な診療費を支払った場合に世帯合算出来ます。
例えばですが被保険者である夫の医療費が月8万、被扶養者である奥さんの医療費が月4万円だった場合、合計額は12万円となります。ですから自己負担限度額が上記の例で約9万円ならば、その差額3万円が戻ってくるわけです。
なお、70歳未満の方が合算できる自己負担額は、21,000円以上のものに限られています。70歳以上の方は自己負担額をすべて合算できます。
70歳以上75歳未満の方
ちなみに70歳以上75歳未満の方の計算式も掲載しておきます。皆さんのご両親や親族等ご高齢の方がいらっしゃったら、早速アドバイスをして診療費用を安くしてあげましょう。
①現役並み所得者(標準報酬月額28万円以上で高齢受給者証の負担割合が3割の方)
80,100円+(医療費-267,000円)×1%
②一般所得者
44,400円
③低所得者(市区町村民税の非課税者等)
24,600円
④低所得者(被保険者とその扶養家族全ての方の収入から必要経費・控除額を除いた後の所得がない場合)
15,000円
高額の負担がすでに年3月以上ある場合
高額療養費としての適用を受けた月数が1年間に3月以上あったときには、4月目の分から自己負担限度額が引き下げられることになります。ただし70歳以上75歳未満という高齢受給者の方からの多数回該当者については、通院の限度額の適用によって高額療養費を受けた回数は考慮しません。
多数回該当は同一保険者での療養にのみ適用されます。国民健康保険から協会けんぽに加入した場合など、保険者が変わったとき等は多数回該当の月数には通算されません。多数回該当は同一被保険者で適用されることになります。退職して被保険者から被扶養者に変わった場合等は、多数回該当の月数には通算されません。
①標準報酬月額83万円以上の場合、140,100円
②標準報酬月額53万円~79万円の場合、 93,000円
③標準報酬月額28万円~50万円の場合、44,400円
④標準報酬月額26万円以下の場合、 44,400円
⑤低所得者(市区町村民税の非課税)の方の場合、 24,600円
高額医療費を無利子で貸してくれます
高額医療費貸付制度
急な入院や手術で高額な診療費を支払った場合、高額療養費で約3か月後に払い戻されるとしても生活費の圧迫は相当なものです。このような場合に備えて協会けんぽでは無利子で「高額療養費支給見込額の8割相当額」の貸付を行ってくれる「高額医療費貸付制度」というものがあります。
貸付金の支払と差額の入金
高額医療費貸付制度の受付後2~3週間程度で、高額療養費支給見込額の8割が貸付金として指定の口座に振り込まれます。
その後、診療月から3か月後以降に高額療養費の支給金額の決定がされます。そして高額療養費給付金が貸付金の返済に充てられますので残額が指定の口座に振り込まれます。
もし決定された金額が貸付金よりも少なく、返済額に不足額が生じた場合は、返納通知書が送付されますので、期日までに納付していただく手順となります。
医療費が予め高額になりそうだとわかったとき
「限度額適用認定証」の発行
医療機関等での医療費支払いが高額な負担となった場合には、医療費支払い後に後日申請いただくことにより自己負担限度額を超えた金額が払い戻されることになります。しかしながら後日払い戻されるとはいえ、その期間内の自己負担としての支払いは大きな負担となって生活費を圧迫します。
上記の計算例でいいますと、総診療費が100万円なので自己負担30万円を先に医療金窓口で支払わないといけないのです。そして約3か月後に高額療養費制度の申請がおりて自己負担限度額が計算されて還付されます。還付額=300,000円-87,430円=212,570円。
そのような場合、あらかじめ入院や手術・長期入院等が最初からわかっている場合で70歳未満の方が「限度額適用認定証」というのを健康保険証と併せて医療機関等の窓口に提示しますと、1ヵ月 (1日から月末まで)の窓口でのお支払いが自己負担限度額までとすることが出来ます。
なお保険医療機関(入院・外来別)、保険薬局等それぞれでの取扱いとなります。また同月に入院や外来など複数受診がある場合には、高額療養費の申請が必要となることがあります。保険外負担分(差額ベッド代など)や、入院時の食事負担額等は対象外となりますのでご注意ください。
この「限度額適用認定証」を健康保険証と併せて医療機関に提示した場合には、後日の高額療養費申請は不要となります。つまり先に自己負担限度額を計算して清算してもらうのです。
発行してもらう為の提出書類
「限度額適用認定証」を発行してもらう場合には、2種類の書類から1種類選んで申請します。
・「健康保険限度額適用認定申請書」
70歳未満の方はこちらを選んで申請書を記入してください。
・「健康保険限度額適用・標準負担額減額認定申請書」
住民税非課税等低所得者に該当される方はこちらを選んで申請書を記入してください。
書類を申請する方法
会社員の場合
この高額療養費制度は、従業員と協会けんぽとの書類申請のやり取りとなります。会社側は申請書類等を用意してくれる事業所もあれば、ノータッチの場合もあります。
基本的にはインターネットから申請書をダウンロードして直接郵送して手続きすることとなります。または会社で用紙を用意してくれて、必要事項を記入したのちに会社に依頼して郵送をお願いします。
市町村の国民健康保険の場合
市町村窓口に行って、申請書を記載してお願いします。市町村によっては市町村ホームページで様式をダウンロードすることができますので、自宅で記入してから市町村窓口に依頼することも出来ます。
もしもの時は医療保険の制度を利用しましょう
この約4割程度の方が知らない高額療養費制度、実際に入院・手術等する方を経験する方が少ないからからこのような認知度なのかもしれません。
ですが、あなたご自身や皆さんのご家族でもし長期入院や手術等の予定がある方がいらっしゃれば、生活費の負担軽減の為にも早速この高額療養費制度があることをお話しましょう。
公的な医療保険制度なのです。ぜひ利用することをお勧めします。
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